20年前の生徒

[記事公開日]2017/03/14
[最終更新日]2017/05/01

個別指導塾で勤務をして20年になります。

私がここまでかかわることになったのは、講師アルバイト時代に経験した生徒のことがあるからだと思います。

彼は当時小学5年生でした。中学受験のために地元の進学塾に通いつつ、でも苦手科目のフォローのために私がいた個別指導塾に入塾してきたのです。

ほっぺのふっくらしたかわいい男の子でした。当時大学2回生だった私は、自身の中学受験経験も生かして理数系の科目を教えていました。

1年近くたったある日、彼の目の周りに白い模様ができているのに気が付きました。何かと思ってよく見てみると、目の周りの皮がボロボロになっていてめくれているんです。

「何それ?」と聞くと、「わからへん。」との返事。まあ、そのうち治るだろうなんて話をしていたのですが、日に日にひどくなっていきました。
同時に、彼は疲れてもいるようでした。あまり積極的な質問もなくなり、授業中にウトウトすることも多くみられました。

気になった私は1週間をどんなふうに過ごしているのか確認すると、ずっと勉強していることがわかりました。
週4回は進学塾。週2回は家庭教師。そして残り2回は私がいる塾。他の1日は、おかあさんがずっと勉強を見てくれている、とのこと。
寝る時刻は夜中の1時か2時と言われました。

「でも、受からへんかったらあかんねん。」

ショックを受けた私は、彼の授業が終わってから教室長に「彼をできることなら退会させてほしい。体調が不安なんです」と相談しました。
教室長は、「先生ならわかると思いますが、もし彼を辞めさせたとしても、別の塾に行くとは思いませんか?」でした。

「今の彼がなんとか踏ん張っているのは、どうしても合格をしたいからです。それができるのは、先生だけなんですよ」

ある種逃げていた私に、突き刺さるような言葉でした。

その後、彼は第一志望には届きませんでしたが、第二志望の私立中学に合格してくれました。
そして、その後、目の周りの模様はすっと消えて、また元の元気な姿に戻りました。

個別指導塾でできることの意味を深く考えさせられた出来事でした。